デスティネーション・ストア | File 065:VAAT(岐阜県・岐阜市)
2025.05.30

HONEYEE.COM的個性派シティガイド
岐阜の朝はここから、スタメン級のパンが揃う繊維問屋街のベーカリー

HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。今回は本企画で初めて東京を飛び出し、岐阜県・岐阜市の繊維問屋街で見つけた、自然と店内へ引き込まれる魅力を放つベーカリー「VAAT」が登場。

愛知、三重、長野、滋賀など多くの県と隣接し、多方面からのアクセスが良好な岐阜県。意外にも東京からは新幹線で約2時間、京都まではわずか30分ほどで着いてしまう。歴史深いスポットも多く、雄大な自然に囲まれるこの地を訪れるなら、真っ先に向かいたいのが、2022年にオープンしたベーカリー「VAAT」だ。

店を構えるのはかつて繊維問屋街として栄えたエリア。いまでは周辺に店もまばらで、軒先には看板すらない。それでも店先を通ると、つい中を覗いてみたくなる──そんな不思議な雰囲気が漂う。

店内に足を踏み入れると、まず目を引かれる重厚なコーヒーカウンター。そこに並ぶショーケースには、パン・オ・ショコラやミルクフランス、クイニーアマンなど、派手さはないが、クラシックで正統派のパンが揃う。

中でもシグネチャーと呼ぶにふさわしいのが、王道でありながら唯一無二のクロワッサン。パリッとした食感が印象的で、これを目当てにだけでも通いたくなる。2年を費やして完成させた最高傑作というのも、一度食べれば納得だ。

「まずお店に出してからクオリティを追求する方法もあるけど、僕らはとにかく満足できるまで試行錯誤を続けました。飲食店を手がける友人も多いので、誰が来ても『おいしい』と思ってもらいたくて。『岐阜だから、まあこのくらいでいいよね』なんて絶対に言いたくなかったんです」

そう話すのはオーナーの小林徹さん。同郷のパン職人・立川朋之さんと二人で全国のパン屋を巡りながら、手探りで辿り着いたのは、共通言語と言えるような生地感と味わいだった。

クロワッサンと同様に、その他のパンも全てが“不動のスタメン”。一部のシーズンものを除けば、ほとんど入れ替わることもない。少数からスタートしたラインナップも時間をかけ、今では塩パンやフォカッチャ、カルダモンロールやドーナッツなども並ぶ。

並並ならぬこだわりがある一方で、「VAAT」の始まりは小林さんが海外で過ごすある“ひと時”がきっかけだった。

「出張でヨーロッパに行くと、早朝にお気に入りのカフェでコーヒーを飲む時間が本当に好きで。岐阜でも仕事前に美味しいコーヒーやラテが飲める場所を作りたかったんです」

“朝、コーヒーが飲める場所”。このシンプルで純粋な想いから始まった「VAAT」では、もはや“おいしさ”は当たり前。空間やグラフィックでも圧倒的な存在感を放っている。

剥き出しのコンクリートと整然さが同居する内装は建築家・関裕介の設計。アイコニックなロゴはグラフィックデザイナー・小林一毅によるものだ。

この手腕にはセレクトショップの店主という、小林さんのもう一つの顔が見え隠れする。同じ岐阜市内で2009年から営業を続ける「EUREKA FACTORY HEIGHTS」では、時代の流れに左右されることなく、本質的な価値を持つブランドや服を選び続けてきた。長年の経験で培ったセンスは、「VAAT」の空気に息づいており、オリジナルプロダクトへも存分に発揮されている。

例えばデザイナー・丹野真人によるTANGTANG(タンタン)と作ったTシャツ、UNUSED(アンユーズド)とのバンダナなど、真剣なモノづくりはもはやベーカリーの枠にとどまらない。それでも手に取る人の多くは、「VAAT」へ普段から足を運ぶ常連客だそう。「ここに暮らし、働く人に来てほしい」という小林さんの想いが紡いだ結果だろう。

岐阜でどこへ行くか迷ったら、まずはこの街の新しい玄関口「VAAT」へ、足を運んでみてほしい。

DESTINATION STORES | File 64
ヴァート | VAAT
住所:岐阜県岐阜市長住町5-3-10
営業時間:8:00〜16:00
定休日:水・木曜
https://www.instagram.com/vaat_the_bakery/