
File 069:daily store(東京・東山)
“誰かの日常”に寄り添う、静かなセレクトのかたち
HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。中目黒と池尻大橋の間、住宅街のど真ん中にひっそりと佇む今回の「daily store(デイリーストア)」。控えめな佇まいのなかに、着ることや暮らすことへのまっすぐな眼差しが息づく。ここでしか見つからない“日常”との静かな出会いがある。
Text Takaaki Miyake
静けさの中に宿る、センスとリアルの交差点
中目黒駅からは16分、池尻大橋駅からも歩くと10分はゆうに超える。「daily store」の場所を聞くと、都内であっても「少し遠い」と感じる人もいるかもしれない。だけど実際に足を運んでみると、その距離がむしろ店の輪郭を際立たせているように思える。住宅街の中に位置し、入り口が通りからは少し奥まっていても、扉を開けた瞬間から、この場所にたどり着いたという確かな実感を与えてくれる不思議な魅力が漂う。
店を手がけるのはファッションブランドのFUJI(フジ)のデザイナーである藤本凌太さんと、スタイリストの浅野亨さん。浅野さんはFUJIのファーストシーズンからスタイリングも手がけており、「daily store」はそんな二人が描く“日々の豊かさ”が詰め込まれている。
以前は渋谷・神泉のマンションの一室で、不定期かつ週末限定で営業していた同店だが、「お店として自分たちの“良い”や“好き”をしっかりと表現したい」という想いから、現在の場所へ移転。日常に寄り添う場所として、今年4月に再スタートを切った。
店内に並ぶのはFUJIの最新アイテムをはじめ、浅野さんがセレクトしたヴィンテージの洋服や花瓶、そしてLIVRER(リブレ)のランドリーグッズなど。とは言え、ここは決してFUJIの路面店ではなく、あくまで二人の好きが自然に交わり、そして集まる場所なのだ。
白い壁と無垢の木で構成された静かな空間に並ぶのは、ユニークさや希少性よりも、日々の生活にそっと馴染んでくれるような服や小物たち。視線をめぐらせていると、まるで誰かのクローゼットや部屋をそっと覗いているような、そんな親密さが感じられる。
ヴィンテージのラインナップも例えば、FUJIのプレーンなTシャツにさっと羽織れるシャツ、気取らず履けるデニムなど、どれも希少性や価格ではなく、日常でのリアルな使いやすさを軸に選ばれている。器や花瓶なども、いわゆる“作家モノ”ではなく、日々の暮らしで気兼ねなく使えるものばかりで、中には千円台で手に入るものまである。
デザイン性が高くエッジが効いていても、いざ買おうとすると着る場面や使うシーンを悩んでしまう。そんな経験がある人こそ、この店のセレクトに安心するはずだ。つい手に取ってしまって、家に持ち帰ったその日や翌日には、自然と身につけている。そんなリアルさを反映したセレクトがこの店には存在する。
そしてもう一つ、「daily store」のラインナップの中で欠かせないのが、オリジナルのオーダーシャツだ。上質な生地を用いながらも手の届きやすいプライスで、静かだが確かな存在感を放っている。今後は浅野さんが「今、穿きたい」と感じるスラックスの製作も進めているそう。
“セレクト”という言葉には、ともすればコンセプトや世界観を強く打ち出すイメージがある。だが、「daily store」はあくまでも“日常”という軸から逸れず、お洒落であることよりも、気負わず自分らしくいられること。特別な日ではなく、何でもない日を気持ちよく過ごすための選択肢。その感覚が、この住宅街の一角にひっそりと根を張っている。
「この場所に移転を決めて良かったと思っています」と浅野さんは話してくれた。駅からは少し歩くけれど、そのぶん店内には自然と余白が生まれている。目指したのは“ショップ”というよりも“居心地が良い”という、その空気感なのかもしれない。
ここは目的を持たずには、決してたどり着けない場所だろう。それでも誰かの「今日、なんとなく寄りたい」になれる店でもあり、目的と偶然のちょうど真ん中。理由はなくても、ふと訪れたくなる。そんな場所が一つあるだけで、日々の生活は少しだけ豊かになるはずだ。
DESTINATION STORES | File 69
デイリーストア | daily store
住所:東京都目黒区東山2-10-4
営業時間:11:00〜19:00
定休日:水曜日
https://dailystoretokyo.com/
https://www.instagram.com/dailystore.tokyo/