デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド
2025.12.27

File 070:SOMBRELO(東京・駒場)
“ワークエレガンス”という、美意識のかたち

HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。池尻大橋と駒場東大前のあいだ、学校や住宅が点在する落ち着いたエリアに佇む「SOMBRELO(ソンブレロ)」。トレンドや華美な装飾とは距離を置き、上品さと機能美、そのどちらも手放さない独自のスタイルが、この場所には静かに息づいている。

Text Takaaki Miyake

ワークとエレガンス、そのあいだにある美意識と覚悟

池尻大橋から歩いて15分ほど、駒場東大前からは10分弱。通りには学校があり、学生や近隣住民の往来はあるものの、セレクトショップや目立った店はほとんど見当たらない。「SOMBRELO(ソンブレロ)」は、そんな落ち着いた住宅地の一角にひっそりと佇んでいる。目的がなければ通り過ぎてしまいそうな場所だが、だからこそ、この店を訪れる行為そのものがひとつの“選択”になる。

オーナーの駒澤慎也さんが掲げる、この店の軸となるコンセプトが”ワークエレガンス”だ。一見すると相反するようにも思える二つの言葉だが、「SOMBRELO」を理解するうえで、これほど的確な表現はない。

駒澤さんは元々、百貨店でスーツやテーラード、重衣料での経験を積む中で、各地の産地へ足を運びながら生地やボタン、縫製への理解を深めていった。そのマニアックさに面白さを感じる一方、クラシックなメンズウェアの世界が持つルールの強さにも、次第に窮屈さを覚えるようになったという。そんなときに目に留まったのが、ウィメンズフロアの自由さだった。

メンズウェアで培ってきた知見を、あえてウィメンズウェアに落とし込む。自分自身が着るわけではないからこそ、想像の中で広がる面白さがある。その発想から、2016年に「SOMBRELO」はスタートした。当時はまだ、今ほどユニセックスやジェンダーレスという考え方が一般的ではなかった時代。それでも、華美なデザインではなく、ウィメンズでありながらもテーラード的思考をまとった、テキスタイルや縫製に誠実な洋服を集めたいという思いが、この店の根底にはあった。

そんな「SOMBRELO」にとって欠かせない存在が、店のミューズとも言えるレジェンドモデルのローレン・ハットンだ。彼女が体現してきたスタイル――気負いのないエレガンス、そして知性と好奇心を内包した佇まい――は、駒澤さんが考える”ワークエレガンス”と深く重なっている。

ワークとは、工業的で機能性に裏打ちされたもの。ポケット一つひとつにも意味があり、無駄がない。一方で、エレガンスとは、ただ上品であることではなく、その人の姿勢や美意識が滲み出るもの。「SOMBRELO」が提案すのはその二つが自然と調和し、ワードローブやスタイリングの中で共存すること。例えばローレン・ハットンのアイコニックなベーカーパンツにチェックシャツ、といった何気ないスタイルの中にも、その思想は息づいている。

店内にはAtaraxia(アタラクシア)、comm. arch.(コム・アーチ)、Dessin de Mode(デッサンドモード)、LOEFF(ロエフ)、Masnou design(マスノウデザイン)、MOTHER HAND artisan(マザーハンドアルチザン)、POSTELEGANT(ポステレガント)、semoh(セモー)、un/unbient(アン)、Honnete(オネット)、Whiteread(ホワイトリード)といったブランドが並ぶほか、「SOMBRELO」オリジナルのバッグやçanoma(サノマ)のフレグランス、NOVESTA(ノベスタ)のスニーカーなども揃う。ブランド名が先行することは決してなく、ここに並ぶものすべてに共通しているのは、駒澤さんが掲げる“ワークエレガンス”の哲学に落とし込めるかどうか、という点だ。

さらにセレクトの基準について尋ねると、駒澤さんからは少し意外な言葉が返ってきた。

「正直デザイナーの人柄よりも、覚悟につきます。そのブランドや作っているもので生きていくということですかね。だから『SOMBRELO』では自然と、大規模でやっているブランドが少ないかもしれません。ビジネス的な思考が悪いわけではなく、“売り上げだけ”を作ることには興味がないんです」

作り手が、そのブランドやものづくりで生きていく覚悟を持っているかどうか。規模の大きさや売り上げよりも、その姿勢にこそ惹かれるという。昨年、房総を拠点に活動する作家・角橋俊による個展を開催したのも、その延長線上にある試みだった。

「今後は洋服以外にも、“ワークエレガンス”を伝えるクリエイションを伝えていきたいですが、本当に作りたいものと向き合っている人に出会えなければ、無理に何かをやる必要もないと思っています」

そう語る姿勢からも、「SOMBRELO」がトレンドや消費の速度とは異なる時間軸で営まれていることが伝わってくる。

駅からは少し距離があっても、この場所を選んだのは「ゆっくりやりたかったから」。ホットな街ではなく、地場に根づき、長く続けていける場所。その選択すらも「SOMBRELO」の在り方そのものを象徴しているように感じる。

駒澤さんが提示する”ワークエレガンス”は、誰かに教えられるものではなく、実際に見て、触れて、初めて腑に落ちる感覚なのかもしれない。

少し足を伸ばしてでも、その美意識に触れてみる価値はある。「SOMBRELO」は、そんな“目的地”として、今日も静かに扉を開けている。

DESTINATION STORES | File 70
ソンブレロ | SOMBRELO
住所:東京都目黒区駒場1-19-12 大竹ビル
営業時間:12:00〜19:00
定休日:月曜日
https://sombrelo.com/
https://www.instagram.com/sombrelo/