インディゴを再解釈して世界に届けたジャパンブランド FDMTL
2022.08.01

「知る人ぞ知るブランド」が、海外で高く支持された理由をデザイナーの津吉学に聞く




Edit&Text by Yukihisa Takei (HONEYEE.COM)
Photo by Kiyotaka Hatanaka


日本が知らないインディゴブランド

FDMTL(ファンダメンタル)というジャパンブランドをご存知だろうか。2005年に誕生したデニムやインディゴにフォーカスしたブランドで、東京・恵比寿の住宅エリアに静かに店を構えてはいるものの、その商品は世界中のセレクトショップに並んでいる。

日本でご存知ない方がいるのも無理はない。FDMTLの売り上げの約8割は海外。ただし世界の名だたるセレクトショップで取り扱われているという実績がある。今回はFDMTLのデザイナーである津吉学に、いかにしてそのようなブランドへと成長を遂げたのかを聞きに行った。



趣味で作ったTシャツが海外の有名店に

東京・恵比寿のFDMTLのショップは、恵比寿と広尾の中間地点の住宅街にある。近隣に用事がなければ滅多に辿り着くことはないロケーションに店を開いた理由をデザイナーの津吉学に尋ねると、「ウチのブランドを好きな人は限られていると思うし、自分が原宿みたいな人が多い場所は苦手だからだと思うのですが、“この面白い物件に出会ってしまった”というのがシンプルな理由です」と答えてくれた。

津吉学は1976年生まれ。建築の専門学校を卒業後に洋服の専門学校を中退。アパレルには従事せず、普通の会社に就職した。その後ウェブデザイナーとして独立し、その傍ら趣味で作ったグラフィックTシャツを近しい人に販売をしていたという。ブランドをやりたいという強い想いがあったわけでもなく、純粋にモノづくりを楽しんでいた津吉に小さな転機が訪れたのは2004年頃。

「僕のTシャツを気に入ってくれた海外の友人がいて、その友人経由でニューヨークのALIFEというショップが僕の作ったTシャツを販売したいと言ってくれたんです。当時かなり有名なショップだったので、自信がついて、ちゃんと自分でブランドをやろうと思ったのが2005年のことです」

スタート時のブランド名は「FUNDAMENTAL AGREEMENT LUXUARY(ファンダメンタル アグリーメント ラグジュアリー)」。異常に長いネーミングも理由があって、「ブランディングとかを考えずに衝動的に作りたいものを作るスタンスだったので、ブランド名に意味を持たせず、覚えられないくらい長い名称にした」という。



90年代に育まれたデニムへのこだわり

現在FDMTLを知っている人は、“デニムやインディゴのブランド”というイメージを持っているが、その方向性が生まれたのはブランドスタートから5年ほど経ってから。

「90年代にファッション好きで過ごしていると、そういう雑誌や会話も多かったせいか、ヴィンテージレプリカやデニム全般の知識が自然と自分の中に入っていたんです。そのせいなのか、展示会をやっているうちに僕が作ったデニムの評判がだんだん良くなってきたことに気づいて、それと並行してデニム系のアイテムにFDMTLという名称を使い始めました。2015年にブランド名もFDMTLに統一しました」

FDMTLのデニムやインディゴの特徴は、日本のボロと呼ばれるツギハギやリペアを重ねた生地からインスピレーションを得たものが多い。そうした生地に津吉が惹かれた理由は、90年代に見たLevi’s®の古着にルーツがあるという。

「僕の友人が穿いていたLevi’s®“66”のヴィンテージの色落ちがめちゃくちゃカッコよかったんです。当時はもう高くなっていて買えなかったのですが、そのイメージが僕の頭の中に残っていたんだと思います。ボロに惹かれたのは、その生地に時間とかストーリーが感じられるから。これをファッションの中に表現できないかを考え始めたんです」

その後FDMTLはデニムにおいて、さまざまな“架空の職業の人”が穿いたデニムを作り始める。

「たとえば鉄工所で働く人がデニムを穿いていたらどうなるかな、とか、ミシンを踏んでいる人のデニムだったらこうなるかな、とか。たまたま出会ったデニムの作り手の方が僕と相性が良かったのか、自分が考えたものを完璧に形にしてくれる人だったので、そういう具現化が楽しくなってきたんです」

どこかに存在するかもしれないが、現実にはなかなか見つからない使い込んだデニムと、そこに加えたパッチワークの修正跡を加工で表現した。「普通に穿いていたらこんな風にはならないよね、っていうものを作り出して、ちょっとした違和感のあるものにするのがFDMTLらしさになってきました」



AMERICAN RAG CIEColetteも買付け

現在FDMTLは日本を飛び越えて主に海外に広がっている。それは売り上げにも表れていて、約8割が海外セレクトショップへの卸になっているというのは冒頭にも述べた通りだ。

「ブランドを始めた2005年当時は、日本のブランドが海外で売れるとは考えていませんでした。でもBAPE®やUNDERCOVERなどのブランドがその道を切り拓いてくれたおかげで、2011年頃には可能性を感じ始めました。最初に海外の展示会に出展したのは2012年。パリの合同展示会に出したけど、全然見向きもされなかったですね。でもせっかくパリまで来たんだからと、スーツケースにサンプルを詰めて、イギリスやオランダのめぼしいセレクトショップに直接営業に行ったんです。それも成果はありませんでしたけど(笑)」

しかし津吉は日本のデニムが海外から注目されている状況を強く感じ、海外への展示会やショップに積極的に足を運んだ。

「最初の2年は何の成果も出ませんでした。Facebookに『パリに展示会に行ってきます』と書き込んだりしていたけど、知り合いから『津吉くん、毎回海外行っているけど何か成果あったの? お金もったいなくない?』と言われて、悔しかったんですよね。意外と負けず嫌いなので、意地でも3年は海外に攻めていこうと思っていたら、2年目の2014年頃に突然AMERICAN RAG CIEのLA本店から買い付けのオファーがあって。しかもあんなに動きの激しいお店なのに、実はもう7年も継続的に取り扱ってくれているんです」

さらにFDMTLの快進撃は続く。世界的に影響力のあったパリのセレクトショップ、Colette(数年前に惜しまれつつ閉店)のクリエイティブディレクター、サラ・アンデルマンに「ダメもと」でメールをしていたところ、本人からバイイングの連絡が入り、時を同じくしてBARNERYS NEW YORKでも取り扱いが決まる。香港のLane Crawford、イギリスのEnd Clothing、気がつけば次から次へと世界的なセレクトショップにFDMTLの商品が並んだ。

「みんな“どこどこの店が買い付けているから”でもなく、一気に突然決まったのには驚きました。聞けばみんなその数年展示会に出ていた様子は見てくれていたみたいで、無駄じゃなかったんだなと思いましたね」



作るものが見えるコラボレーション

FDMTLの猛攻はコラボレーションの領域でも始まった。最初に決まったのはVANS社。それも突然オファーが舞い込んできたという。

「VANSでコラボレーションしたら、すごく面白いものができそう」と言っていただけたんです。「ぜひ作ってみたいですが、ウチのことはご存じですか?」と返したら、「いえ、初めて見ましたけど、かっこいいですね」と言っていただけて、とんとん拍子でコラボレーションが決まりました」

現在までにFDMTLは、VANSのほか、New Balance、New Era、Helinox、master-piece、NANGA、そしてBE@RBRICKなど数々の人気ブランドとコラボレーションを行い、そのプロジェクトの多くは継続している。

なぜそれだけの名だたるブランドとのコラボレーションが成立しているのかを津吉に尋ねた。

「それはバイイングでもそうですけど、僕の作っているのはインディゴという“日本の香り”がするものだったこと、そしてそれがいわゆるレプリカではないということを海外のバイヤーやディレクターが理解してくれたからだと思います。そしていざコラボレーションをすると、どんなものが出来上がるのかも見えやすいというのも大きいと思いますね」

中国市場で販売したNew Balanceの2002R

日本のバッグブランド master-pieceと制作したバックパック

New Era®とも継続的にコラボレーションを行なっている

韓国発の人気アウトドアブランド Helinoxとコラボレーションしたアイテムは、ボロのグラフィックを総柄プリント

実際どのコラボレーションも、インディゴやボロをベースにしたファブリックやプリントが印象的なアイテムとして具現化されている。中でもユニークなのは、BE@RBRICKやHelinoxにプリントされたインディゴやボロの表情だ。

日本のブランドは良くも悪くもこだわりが強いので、インディゴをウリにしたブランドであれば「インディゴ柄プリント」という手法は使わない。そこには津吉の発想の自由さと、ユーザー目線が流れている。

BE@RBRICKとのコラボレーション第1弾。100%、400%が発売

2022年8月発売のBE@RBRICKとのコラボレーション第2弾。100%、400%が発売

「僕はデニムもボロも好きですけど、それをそのまま再現したいとは思わないんですよ。オリジナルは越えられないし、それを忠実に再現することにも興味はないんです。それよりそれをどう料理して、新しい価値を作れるかの方が面白い。しかも実際にボロで作ったら、実際に使う時に不便じゃないですか。だからあえてプリントで表現することにしたものが多いんです。BE@RBRICKを作らせてもらった時も、『マットな表情の方がインディゴらしい』という意見もいただいたんですが、あえて光沢のある加工をお願いしました。その違和感が新しい表情を生んだと思います」



こだわりは“伝えない”

津吉は近年の日本のファッションに少し窮屈さを感じているという。

「日本のメンズ服は少し過度に“教養”が必要になってしまった気がするんです。マニアックさを楽しめる人はそのコミュニティの中ですごく楽しめるんですけど、その一方でみんなに解放されていないというか。デニムや洋服においてこだわった「◯◯縫い」をして、そういう背景を押すブランドって多いですよね。FDMTLでも“赤耳”だとか、「◯◯縫い」をしているものは多いんですけど、それって当たり前のことだと思っているので、その語りは一切しないようにしています。デニム好きな人が見ても納得する作りにはしていますが、その文章が商品の本当の魅力を邪魔してしまうから言わない。サステナブルな生地を使っていても書かない。他のブランドのやり方を批判しているわけじゃないですけど、そういうのがFDMTLらしさなのかなと思います」

作り続けている理由は、「今でもサンプルが上がってくると興奮するから」。今後もマイペースにモノづくりを続けるため、今後はもっとデザインに集中できる環境を整えたいという。

「それでも何か達成したい目標は?」と聞くと、「子供の頃から好きだったものと何か一緒にやること」と教えてくれた。FDMTLのアトリエには『週刊少年ジャンプ』やファミコン、ゲームボーイ、ラジコン、ミニ四駆、G-SHOCKなどがディスプレイされていた。

「こんな目標を持てる人生を歩める人はきっと限られていると思うので、多少苦しいことがあっても平気なんです(笑)。中でも一番やりたいこと? それはNIKEとのコラボレーションかな。Air Jordan1も実は50足くらい持っているマニアなので、いつかNIKEと何か作れたら最高ですね」



津吉 学  Gaku Tsuyoshi

1976年生まれ。2005年にFDMTLの前身であるFUNDAMENTAL AGREEMENT LUXUARYをスタート。2009年に目黒に直営店の「CATII TOKYO」をオープン。2015-2016年AWシーズンよりブランド名をFDMTLに改称。インディゴや襤褸(ボロ)を新解釈したアイテムを数多くリリースし、特に海外での人気を獲得。海外有名セレクトショップを中心に展開し、コラボレーションも多数。2019年に恵比寿に直営店を移転オープン。

[INFOMATION]

FDMTL FLAGSHIP STORE
東京都渋谷区恵比寿2-4-1-1F
https://www.fdmtl.com

[編集後記]

恥ずかしいことに、メンズファッションのメディアに長年携わっていながら、17年も続いているFDMTLの存在を昨年初めて知った。その多くが海外で取り扱われていることを知って、少し自分の中で言い訳が出来たとともに、こんな面白いブランドを見過ごしていたことを後悔した。津吉さんの“実はこだわっているのに”フラットなモノづくりの手法は、海外だけでなく日本でももっと評価されるのではないかと思う。(武井)